やっぱり「○○たて」はうまかった。
2012.01.28 Saturday

久しぶりに内生蔵(ウチウゾウ)さんから<あれも聴きたい、これも聴きたい>の原稿が届いたのでご紹介いたします。 


<あれも聴きたい、これも聴きたい> やっぱり「○○たて」はうまかった。

 昨年の中ごろ、体調を崩し入院なんぞしなければならない羽目になり、その後も暫くの間は療養生活のように過ごしていたので、このところこのコーナーにも随分ご無沙汰してしまったが、昨年の暮とても良いコンサートを聴くことができたので、久しぶりに原稿を書きたくなった。

 ところで今回のテーマである「○○たては旨かった」とは「なんのこといっとるんかさっぱりわっからせんでねぇか。そこんところもうちょびっとはっきりしてちょ!」と言われるお方が尾張、三河、美濃方面にはきっとおられることと思うので一応ご説明をしておくと、ここでいう「○○たて」とは、「今○○してきたばっかり」という時に使う「○○たて」のことをいっている。つまり「できたての料理」などというときに使われる「○○たて」のことだ。

古くから私たちは何につけてもこの「○○たて」を大切にしてきたが、これは世界中どこでも共通した感覚なのだろう。どこの国へ行っても野菜は「採れたて」の方が新鮮で好まれるし、魚は「漁れたて」の方が生きがよくておいしいものだ。

そこで日本の場合を少し上げてみると、まず主食であるお米なんかは古米よりも新米の方が当然好まれる。つまり「収穫したて」というわけだ。ごはんにしても「炊きたて」が最も美味しい食べ方だということにあまり異論はなく、お餅は「つきたて」と相場が決まっている。蕎麦好きな方にとっては「打ちたて」が最もうまい味わい方であろうし、風邪は引きたて(いや風邪の場合はひき始めか)が肝心といわれる。魚は「焼きたて」で果物は「もぎたて」。
とにかく世間は「○○たて」を好み、「そうともいえない」というようなものを探す方が難しいものなのだ。

ところで話はいきなり音楽の方向へ向かうが、CDや昔のレコードといったものに記録されている音楽は、少なくとも「演奏したて」のものではない。いくら最近の録音といっても、発売されるまでに数ヶ月の期間は必要だし、一般的には新譜といわれるものでも1年くらい前の録音であることが多いので、いうなれば音楽の缶詰、あるいはレトルト食品といったところであろうか。とにかく誰でもどこでもお手軽に味わえるのがCDやレコードだ。

しかしどんなにすぐれたオーディオ装置をもってしても生の音や音場を再現するのは不可能だし、演奏家にとってもその演奏は過去のものということになり、世の中には自分が演奏した音楽をCDのような固定したものととらえられることには耐えられないとして、あまり録音を好まない演奏家も存在する。とにかくそういったメディアにはその芸術家の「過去」がパッケージされているわけで、「できたて」でないことはたしかである。

昨年の12月4日、兵庫県は西宮にある兵庫県芸術文化センターにおいてイョラン・セルシェルのリサイタルがあり、久しぶりに彼の演奏を生で聴くことができたが、つまり「演奏したて」の音楽を味わったわけであるが、これが本当に素晴らしい演奏で、久しく味わったことの無い感動を覚えるコンサートだった。

セルシェルといえば、ギタリストの中でもとりわけNHKのお気に入りの演奏家のようで、来日すると必ずといってよいほどリサイタルのもようがテレビで放映されるのだが、いつもバッハを含めたどちらかといえば渋い曲目が多く、華やかさとは無縁な路線を歩んできた演奏家だ。しかしセルシェルは数多い海外のギタリストの中でも来日回数も多く、私としては正直言って少なからず食傷気味になっていて、もう少しワクワク感やドキドキ感が欲しいといつも感じていた。

しかしその日のセルシェルの「演奏したて」を生で聴くと、テレビで見ているときのような退屈さをまったく感じさせないばかりか、「なんと薫り高い芸術であることか」と、いたく感動させられてしまったのだ。

プログラムは自身の編曲によるビートルズの曲を何曲かはさんで、やはりバッハが主体で、とりわけ「これが聴かせどころ」といった派手な曲も無く、音楽はただ淡々と進むいつものパターンなのだが、やはりその場に立ち会うと例の「○○たて」が効いてくる。

彼には大きな音で弾こうという気などまったくなく、小ホールとはいえ、自宅で弾いているかのような、むしろ密やかな音でギターを奏でるんだが、まさに「演奏したて」の新鮮な音楽として我々に伝わってきて、プログラムはあっという間に終了してしまった。

もちろん生で聴こうがテレビで見ようが彼の芸術に変わりがあるわけではない。しかしその時の会場はしんと静まりかえり、聴衆は終始固唾を呑んで聴き入っていた。(これは会場に来ていた別の人も同じような感想を述べていた)その時の聴衆は正にセルシェルの音楽を「聞いた」のではなく「聴いた」のであった。

コンサートの場合そこで演奏される音楽は、調理しながら味わう料理のようなものなので、鍋料理やバーベキューのように煮ながら、焼きながら味わうという、まさに究極の「煮たて・焼きたて」ということになるわけだが、とにかくあのような感動はめったに味わえるものではない。おそらくCDやテレビではわからない演奏者の微妙な「なにか」が伝わってくるのであろう。演奏会の後、改めてデビュー当時のセルシェルのレコードを、レトルト食品と知りつつ聴いてみようという気にさせられた。(内生蔵)

comments(0)

    ジュディカエル・ペロワ公開レッスン&コンサート
    2012.01.22 Sunday

     
    世界は広いなあとつくづく感じました。ジュディカエル・ペロワと言う名前を以前は聞いたことがなかったのですが、世界にはこんなギタリストが居るんだと思いました。昔、ジョン・ウイリアムスが本番の演奏で全くミスなしで凄い演奏をした時、聴衆はこんな感じと驚きを抱いたんだろうなあと想像しながら彼の演奏を聴いていました。
    NAXOSからバッハのCDが出ていますが、これまた信じられない程凄い演奏です。一人で弾いているんだろうか、多重録音していないだろうかと疑いたくなるような演奏です。3日前に日本に着いて、昨日と今日のミューズが初日でしたので、これから大阪、東京、茨木などを回ります。是非お勧めですよ。聴きに行ってください。

    昨日は彼の公開レッスン、そして今日が演奏会でした。
    彼の左手のテクニックは完璧です。もちろん右手も凄いのですが、決して速弾きをする訳ではありません。その左手の凄さは昨日のレッスンで納得できました。全く無駄な動きはなく、ゆっくり動くんです。速くではなくゆっくり動いて音がレガートにつながります。そして、軸が全くぶれない安定したテンポで、滑らかに、音の粒が完璧に揃った状態で演奏されていきます。右手はかなり特徴的で、i(人差し指)を多用します。ベースラインも、旋律もi1っ本でうまく弾くんです。親指の爪は2cmもあろうかと思うほど長い。

    彼は昔はフランスで天才少年と呼ばれていたそうで、何でも直ぐに弾けるようになったそうです。その為、教え始めたころは、生徒の苦労や、生徒が何故弾けないのか理由がわからず、どう教えればよいのか困ったそうです。そこで彼はピアノやバイオリンの教授のレッスンを聴講して教え方を勉強したそうです。そして、何人もの生徒を国際コンクールで優勝に導く程の指導者にもなった様です。

    まだまだ書きたいことは一杯あるのですが、百聞は一見にしかず。是非、聴いてください。言葉で説明するのがもどかしい程です
    山下高博
    comments(0)

      サバレス弦 値上げ
      2012.01.17 Tuesday

      2月からサバレスのアリアンス、コラム、カンティーガ弦が値上がりするそうです。
      しかも、10%以上もの値上げです。
      サバレスの愛好者の皆様はお早めにお買い求めください。
      comments(0)
        コメント
        コメントする








         
        関連する記事
        1

        S M T W T F S
        1234567
        891011121314
        15161718192021
        22232425262728
        293031    
        << January 2012 >>

        recent comment

        • 村治昇公開レッスン&座談会
          萌音
        • 今月の楽譜
          山下高博
        • 今月の楽譜
          安兵衛
        • はじめてのネイルサロン
          B